ぼたえもん童話集 『 虎猫の失敗 』①

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あるところに、一匹のネコがおりました。たいへんに身体の毛の
ぐあいが虎ににて、それに身体もひとなみすぐれて大きかった
ので、近所の者はみな「虎猫」「虎猫」と呼んでおりました。

その家の主人も、このネコのいかにもたけだけしく、牙をならし、
尾をふりたてて、とおりかかりのイヌ ーー時には牛や馬などに
さえーー飛びかかって行くのを見て、
「これは、まあ、たいへんなネコだ。近所の人々が虎猫虎猫と
呼ぶのもむりはない。イヌや牛馬にまで噛みかかってゆく
というのは、ほんとにおそろしい強いネコだ」と感心していました。

このブチネコを、生まれおちた時から育てあげたこの家のおかみ
さんは、ますます鼻を高くして、
「どうでしょう。世界中さがしたって、こいつほど強いネコは、
おそらくありますまい。それで、よく主人のいうことをきいて、
夜はねずみも取れば、イヌのかわりに盗人の番にもなるし、
ほんとに重宝なネコですよ」
ともうしのました。ふだんからこの虎猫をよくかわいがると
いうので、たいへんおかみさんに受けのよいお手伝いさんは
すかさずもうしました。
「だんなさまはよく夜おそくなって山道をひとりお帰りに
なることがございますが、ねェ。奥さま、そういう時に、この
ネコをお供におつれあそばしたら、途中、どんなものに
出あっても、きっと心丈夫だろうとぞんじます」
「なるほど、それはよいところにお気がおつきだ」
とおかみさんはあいづちを打ちました。

そこで、主人もいよいよその気になって、夜、外へ出る
時には、きっと、この虎猫をお供にされて、どこへでも
行きました。
しかし、近所の人の中には、「あそこの主人もよい物好きだ。
なんぼ強いといったところが、たかがネコじゃないか。近所の
者が虎猫虎猫といってほめれば、いい気になって、あんな
ものを連れて夜道を歩いたところで、なんで心丈夫なものか。
狼にでも出あったら、一噛みにやられらあ」といって、かげで
笑っている者もありました。

ある夜のことでした。この有名な虎猫先生が、れいのように
ご主人のお供でとなり村へまいることになりました。
ネコは心の中で、
「ああ、こまったことだな。 あのとなり村に行く途中には、
非常にけわしい山道があって、おそこにはおそろしい狼が
すんでいるということだが、今まではさいわいに何にも出
あったことはなかったが、今晩あたりひょっとすると、出て
来はしまいか。ああ、おれの主人も、たいていにおれの心を
察してくれればよいのに、おれはイヌや牛馬などへは、
こわくてこわくてしようがないから、いっしょうけんめい
ウーウーうなって牙をむいているのに、おれがほんとに
強いのだと思いこんでしまって、とうとう土佐犬のかわりに
あちこちと連れて歩かれちゃ、じっさい、やりきれない」
と思いました。


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このページは、出口眞人が2010年8月20日 15:06に書いたブログ記事です。

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