ぼたえもん童話集 『 虎猫の失敗 』③

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そこで、さっそく、今まで子どものように大事に育てられた
恩も忘れて、その夜ひそかにご主人の家を抜け出て、山の
奥深くはいって行きました。
するとそのあたりに一面藪がしげっていたので、
「なんでも、虎は千里の藪をくぐるということもあるから、
ちょうどもってこいの場所であるわい」と思いながら、
その藪の中へわけいりました。

藪の中へはいったネコどのは、
「なんでも、おおいにここで修業」と、まい日、朝から晩まで、
小虫をくわえてふり飛ばしたり、のら蛇を見つけては
おどりかかったり、木や草の株を掘り起こして爪をみがいたり
など、いろいろと業をつんでいきました。
そのおかげで、日数がたつにつれて、身体もグングン肥えて
ゆくし、牙もだんだんのびてくるし、顎の虎ひげも銀の針かと
うたがわれるほどになってまいりました。

こうしてすっかり虎になりきった気持ちで、ある日、彼は、
「どうかしてほんものの虎と交際がしたいものだ」
と思いながら、ズンズン藪の奥へ奥へと進んで行きました。
すると、ありがたいことに、ちょうど、むこうから散歩に
やって来た一匹の子虎と出あいました。 ネコはわざと
えらそうなふうをして、虎に近づきました。
「ヤァ、こんにちは」
子虎はていねいに頭をさげて、まずあいさつしました。ネコは、
ちょっと首をさげただけで、
「やぁ、散歩ですかい」
と気がるにもうしました。子虎は無邪気そうな声で、
「あの、おとっちゃんが、このごろはひとりでさびしいですから、
おじさん、遊びにいらっしゃいな」てもうしました。

それから、ふたりはつれだって、たくさんの虎のすみかへと
進んで行きました。ネコはわざわざ子虎と肩を 並べてみて、
自分のほうが少し背が低いのを気にしながら、
「なんて虎というものは、あんがいつまらんものじゃな。
おれももう二、三ヵ月すれば、この虎ぐらいは眼中にない
ようになるにちがいない」と、しいてなぐさめておりました。



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このページは、出口眞人が2010年8月20日 16:05に書いたブログ記事です。

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