ぼたえもん童話集 『蛾と芋虫』③

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第四のイモムシは、ほとんど羽がはえていたときですから、ガが

ひとくち、さあ飛びなさといったら、すぐスッと飛べてしまいました。


そこで、ついにイモムシは、おおいに発憤して、生垣の頂上まで

よじ登り、そこから空へむかって飛びあがろうとしました。


そのとたん、ちようどすぐそばにあった金柑の木の葉の上へ、

チョコリンと落ちました。


ガ 「やあ、えらいえらい。うまく飛べたじゃないか」


イモムシは、すっかり空中にいるつもりで、


「ああ、気持ちがよい。なんと地上のものどもは、小さいな。

みんなコセコセとかせいどるわい。それにしてもわしには、

どこにも羽がはえておらぬが、なんと、羽なしで飛ぶなんて、

新機軸じゃないか」


と、得意に思いました。


地上の多くのイモムシどもも、このさまをながめて、ほんに、

あいつは、急に空が飛べるようになったんだね、あんな高い

あぶないところに平気でとまってけつかる、とほめました。


そこで、このイモムシどの、ますます得意になって、今にも

落ちそうな足場の上に、いっしょうけんめいにしがみついて

いましたが、しだいに、心の中では、


「なんと空中というところは、下から見たほどにもない、

たよりない、不自由な、せまくるしいところだな。 第一、

腹がへってきたが、いったいどうしたらたべものがえられる

んだろう。ああ、こまったな。しかし、いまさら友だちへ広言

をはいたてまえ、メソメソと下へ降りてゆくこともできず、といって、

こんなせまいところでは、動くことさえできぬし、こまったことだな」


と悲しんでいました。



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このページは、出口眞人が2010年8月18日 15:40に書いたブログ記事です。

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